WWE新戦略を読む


 WWEの新しい事業戦略について、レスリング・オブザーバ4月24日号の分析記事があった。時間が経ってしまったが、抄訳で紹介する。


もはや人生勝ち上がりといってよいにもかかわらず、ビンス・マクマホンは再びギャンブルのテーブルに戻り、おそらくは人生最後の勝負に出る。

65歳のマクマホンは、墓石に「もっとも偉大なプロレスのプロモーター、ここに眠る」などと書かれたいと思ったことはない。マクマホンは、実際にもっとも偉大なプロモーターなのだが、なぜか人からそう思われることを嫌っている。マクマホンは長年にわたって、自分がテッド・ターナーのライバルのように振る舞ってきた。テッド・ターナーの方はおそらく、プロレスのことは年に数分しか考えていなかっただろう。マクマホンは自分で戦う相手を選び、ときに大きく勝ち、ときに大きく負けた。そしていまマクマホンは、唯一成功した事業である「プロレス」という言葉を捨てようとしている。プロレスは世間でネガティブな響きを持つからだ、という人もいる。確かにそういう面はあるだろう。でもそれは何故なのだろう。過去27年にわたって、世間の人がプロレスを考えるとき、思い起こすのはマクマホン自身が監修してきた商品なのである。

マクマホンの次の舞台は World Wrestling Entertainment ではなく単にWWEとなり、その中核事業はかつてプロレスと呼ばれたもの(いまでもマクマホンの部下以外はプロレスと呼んでいるもの)となる。マクマホンは1985年から、プロレスのことを「スポーツ・エンターテインメント」と呼んできた。もう26年以上も使い続けている言葉なのに、マクマホンに給料をもらって、不自然な話し方に努めている人たちを除けば、まるで浸透していない。そして今度はこれを単に「エンターテインメント」と呼ぶことになる。

マクマホンは今後、WWEと似たようなビジネスモデルを持つ会社の買収に予算をどんどんつぎ込み、買収した企業にテレビ放送やツアー、マーチャンダイジングを行わせようと計画している。マクマホンは、具体的な買収先について触れずに、ただ「なんでもありだ。融資だってたくさん受けられるぞ」と語っている。この点については、過去のマクマホンのビジネスのやり方とは大きく違っている。これまでのマクマホンは、ビジネスパートナーなど必要としていなかった。「他人とは上手くやっていけないんだ」などと語っていたものである。


WWEは最初のレッスルマニアまでは赤字だったと思われる。マニアが当たってからは、90年代半ばまで財務的には順調だった。90年代半ばになって、プロレスのブームもありWWEが絶好調の時期には銀行融資を受けたこともあったが、それもPPVの値上げによって解消した。株式を公開してからは、多額の現金を抱えるようになった。もっとも、昔からの株主にとっては、公開は必ずしも素晴らしいことではなかった。公開初日のWWEの株価は42ドルだった。現在の株価は11ドル台と低迷している。

株価の最近の低迷は、投資家がWWEの新戦略を不安視していることを物語る。投資家にとってさらに現実的な問題として、もしWWEが手元の現金を企業買収に使うのであれば、配当金がカットされることにならざるをえないということもある(ここ数年のWWEの配当金は一株あたり36セント、収益率は実に12.8%であった)。

アメリカではここ10年、プロレスは衰退産業である。唯一の救いは、エンターテインメント産業の変化である。プロレスはつねに、他のスポーツイベントと比べても、比較的安価で楽しめるエンターテインメントであった。大会場での興行コストが急騰する中、80年代から90年代初期にかけて、平均12ドル程度だったチケット代は30~40ドルに値上げされることとなった。それでもまだ、フットボールやバスケットボールに比べれば、バーゲン価格と言えた。その上、テレビ業界の分散化が進むと、固定客を持つプロレスは、全国網の放送局は無理だとしても、ケーブル局にとって非常に重宝されることとなり、放映権料が急上昇した。スポーツ専門局が登場し、スポーツ番組をあさり始めると、WWEは一層注目されるようになり、テレビからの収入はますます増えた。かつては赤字の元凶だったテレビが、いまや会社の屋台骨を支えるようになった。

WWEでは現在、新ブランドのキャンペーンを実施中である。そのスローガンは、「Bigger, Badder, Better」である。

また、HHHが人材開発部門のトップとなることが公式に発表された。シン・カラとの契約がHHHの最初の仕事であるとされており、シン・カラは当面メインロースターとしてプッシュされることになっている。ジェラルド・ブリスコの新しい仕事は、カレッジレスラーのスカウトだ。これまでカレッジレスラーがWWEに入団するには、自分から売り込む必要があった。それでも、カート・アングル、ブロック・レスナー、ボビー・ラシュリー、そしてMMAに転向したキング・モーと言った人材の採用に成功してきた。

マクマホンのプロレス以外の事業の失敗の歴史は、プロレスの成功の歴史と同じくらい、伝説的なものだ。最初の大きな失敗は、スタントマン Evel Knievel 氏が、アイダホ州のスネーク・リバー峡谷を自家製ロケットで飛ぶというパフォーマンスを、大規模なクローズサーキットで上映しようとしたことで、マクマホンは個人的に破産宣告を受けている。そのあとも、コンサートプロモーターとして、ボクシングのプロモーターとして、映画のプロデューサーとして、音楽会社経営者として、次々に失敗を重ねた。ボディビルディングをPPVビジネスにしようとしても失敗、ボディビルディング用のサプリメント販売にも失敗、タイムス・スクエアに開店したレストランも、奥方の上院議員出馬も、そしてもちろん、新フットボールリーグの設立も、全部失敗だった。


90年代のプロレスブームの頃のマクマホンは、18~34歳の視聴者を獲得する秘策の持ち主であると自認していた。そこでWWEは、ハーレム・グローブトロッターズ(バスケットボールチーム)、プロ・ロデオツアー、カナダフットボールリーグ(CFL)などの買収を試みたが、いずれも実現しなかった。カナダフットボールリーグのオーナーにすげなく断られたことが、XFL設立の理由の一つとなっている。高額で選手を引っこ抜き、CFLの市場を奪い取ろうとしたのだ。しかしこの計画はうまくいかなかった。UFCに売却する前のPRIDEも、マクマホンに買収を持ちかけたが、マクマホンは興味を示さなかった。マクマホンは当時、ボブ・サップを主軸に、自らMMAプロモーションを立ち上げることを考えていたのである。マクマホンには、大きくて正しいルックスの選手を軸に組み立てていくという、プロレス流のMMAビジネスへのビジョンがあった。しかしサップはK1の契約下にあり、マクマホンもやがて興味を失った。

これらの失敗に学び、今後は買収するとしても、エンターテインメント事業の枠内で行うとマクマホンは語っている。新しい戦略の実施で、10人いたWWEの取締役のうち3人が辞職している。WWEでは、新戦略にふさわしい、新しい取締役の起用も検討しているという。

・・・拡張策の一つには、すでに話題に上がっているWWEチャンネルの設立がある。きりがないほどの映像資産を活用したり、安上がりなトークショーを作る程度なら、そこそこのビジネスになるだろう。しかしオリジナル番組の製作などに乗り出すと、複雑な問題が起きそうだ。

ビンスは、自社のテレビ製作スタッフを外注化して、ライブイベントやテレビ番組を製作を行うといった計画を明かしている。

「われわれほど、テレビ製作がうまい会社はない。オリンピック級だ。ライブイベントのツアーについては、アメリカの誰よりも知り抜いている」

投資ファンド Royce & Associates 社のポートフォリオ・マネージャ、Jay kaplan氏は、WWEは結局プロレスの会社だと思うと語っている。同社はWWE株式の9%を保有する、ビンスに次ぐ大株主である。

「私は、今最も重要なことは、コアビジネスであるプロレスの収支を健全にすることだと考えている。市場が懸念しているのは、WWEがリアルファイティングに、市場シェアを奪われているのではないかと言うことだ。」

このような分析が正しいかどうかは別としても、多くの投資家は今回の新戦略を、プロレスが長期的にみて成長産業ではないことを、WWE自身が認めたものと受け取っている。ここ10年、WWEは、ブルーノ・サンマルチノ、ハルク・ホーガン、スティーブ・オースティン、ザ・ロックなどといった、会社を支えるようなメインストリームのスター選手を輩出できていない。すべてがスクリプトされ尽くしたプロモーションでは、大衆と深いレベルでつながることが難しく、現代のプロレスではサンマルチノ的なキャラクターは生まれにくいと言うことはある。ああいうキャラクターは、何年もかけて作り上げていくという面もある。ホーガンやスーパースター・ビリー・グラハムのように、過剰にジュースされたブロンドの男であっても、リング内で出来ることが限られている選手は、現代のプロレスでオーバーすることは難しい。2001年にインタビューが脚本化されてから、大スターが生まれていないことには注目する必要がある。タイトルの意味も希薄化してしまい、試合の勝ち負けやタイトルそのものについても、ゴールとしては機能しなくなりつつある。アングルの使いすぎで、過去の因縁の意味も無くなってしまった。WWEは基本的に、自らプロレスを組み立てていく材料を排除してしまい、スター選手の輩出は殆ど不可能なくらいまで、難しくなってしまっている。

だからといってプロレスに死刑宣告が下ったわけではないが、もう昔のように、プロレスが全国人気スポーツの第5位にランクすると言ったことは遠い夢である。そんな環境で株価を上げていこうと思えば、コングロマリット化していくしかないのである。しかし、そのリスクもまた高い。まるで知らない事業を買収するより、エンターテインメント事業に絞っていくというのは、リスクを和らげる。しかし、WWEはエンターテインメント事業を知っていると言えるのだろうか。すでに映画も何作もリリースしているが、決定的に評判の良い作品は一つもない。プロレスから派生した作品以外で、エンターテインメントの世界で成功して見せたことは一度もないのである。

短期的にはWWE株式は買いとはいえない。ウォールストリートは今回の動きを必ずしも良いニュースだとは見ておらず、その上買収資金確保のため配当金がカットされることになり、株価は下降中だ。長期的に株価が上がるかどうかは、WWEが良い買収をして金を稼げるかどうか、本業でもしっかりと成長できるか否かにかかっている。

配当金について言えば、2008年以降、WWEは一株あたり年1.44ドルを配当してきた。しかし2010年のアニュアルレポートでは次のように述べている。「当社では、株主の皆さんに、これまでと同じように配当金をお支払いできるかどうかわかりません。」

WWEの新戦略を、「出口戦略」だと見る人もいる。たくさんのコンテンツを買い付け、テレビ局を持ち、これを巨大メディア企業に売却するというのだ。ビンス自身はそんなことはあり得ないと語っている。

あるいはこの新戦略を、ビンスの昔からのマインドセットなのだと見る人もいる。ビンスは、自分に対する世間の認識を変えようとしている。しかし、プロレス以外での成功例が出ない限り、他人の認識が変わることはないだろう。

スポンサーサイト

毎週更新!

Ad

Ad

MMA Update