UFC JAPANレビュー


マッチメイクの妙ということは、たしかにあるのだろうとは思う。それにしてもUFC日本大会をみていて思ったのは、かつて感じた此方と彼方との絶望的なレベル差が、それなりに埋まってきているのではないかという手応えだ。田中にせよ菊野にせよ国本にせよ中井にせよ、立ち上がりに押されても、徐々に相手の攻め手やら、試合の行方を分析し、流れを制し、最後まで手に汗握る勝負を見せてくれるという試合がずいぶんとあった。サッカーを始めいろいろな競技で、「フィジカルでは負けても仕方ない日本人」というエクスキューズがまかり通る中、フィジカルでタイマンを張るしかないこの競技で、日本人選手がこんなにがんばっているという事実は、誇りに思って良いのではないかと思った。日本人ファイターの戦績は5勝5敗だった(マキシも入れると6勝5敗だ)。正直、負け越すと思っていた。なんだか明るい気持ちになれる大会だった。


カン・ギョンホ def 田中路教

田中が前半の暴風雨をしのぎきり、3Rにはペースを奪い取って小さい身体で大きな相手を振り回していた。田中のたたずまいは冷静でいてやんちゃ、その動きには無鉄砲のようでいて根拠や計算があるようにみえ、頼もしいことこの上ない。星を落としたのは痛いが、ベストファイト賞だから、黒星もノーカウント同等だろう。カン・ギョンホも素晴らしかった。この借りはしっかり返した方がいい。


菊野克紀 def サム・シシリア

アルカイック・スマイルを浮かべて戦う菊野、1Rはやや劣勢にも見えたが、2Rに相手が急に様子見を決め込み始めたところを、RNCでまさかの一本勝ちを収めた。前回の敗戦では、いかにもプランBがない(あるいは出せない)感じが見ていて辛かったが、今回は相手が想定していないような、斜め上からのプランBを繰り出してくれた感じだ。本人は沖縄空手でのノックアウトにこだわりたいのだろうが、ファンとしてはこういう勝利も全然うれしい。普通にMMAが強い上で、空手殺法は忘れた頃に爆発するくらいがちょうどいい塩梅なのかもしれない。


金原正徳 def アレックス・カセレス

それにしてもすごいアップセット勝利だった。金原選手にとって長い間出場を望んでいた大舞台に初登場、さぞ力んだり緊張したりするのではないかと想像された。金原選手が実力者であることは言うまでもないが、その実力を出せない選手をたくさん見てきた。しかし、金原の試合ぶりは落ち着き払っていて、アクセルとブレーキを思いのままに踏みならしていたように見えた。3Rは金原の方がちょっとガス欠しているように見え、カセレスがブルドーザーのような馬力で攻め込んでこなくてよかった。佐山に理論を学んでいるというインタビュー記事があったはずだが、どのへんでいかされていたのであろうか。


堀口恭司 def. ジョン・デロス・レイエス

堀口が仕留めるときの回転数が上がっていく様子はホントに爽快である。こんな勝ち方をした後のインタビューでは何を言っても許されるはずなので、「I Want Title Shot」とか、「デミトリアス、ユーアーネクスト」とか、はっきり叫ぶべきであった。今の堀口なら、言えばすぐにそうなる。


ミーシャ・テイト def 中井りん

入場時のロンダばり(もしくは北岡ばり)のハイテンションの中井りん、試合中に執拗にテイクダウンを狙う馬力が関西のおばちゃんのようにたくましい中井りん、試合後にさっぱりした幼い表情で水を飲む中井りん。いろんな表情があるのが素晴らしい。それを見ているだけでどこか心躍るし、それだけで5000円だし、また見たいと思わせる。試合前にもう少しメディア露出があると良かったのだが、それでもオープンワークアウトや計量でみせたコスプレを含め、自己演出をしようとする意図があることは立派だし、俗に言うイットファクターも、荒々しい形で存在しているように見える。

試合はおそらく打撃の手数でミーシャが判定を拾ったのだろうけれども、だからといってミーシャが強そうに見えたわけでもなく、げんに中井の顔もほとんど腫れておらず、当たらない打撃の手数が多かっただけに見えた。パワー、スタミナ、スピードのどれをとっても、中井が上回っているように見えた。巌流島でデスマッチをやれば、勝って帰ってくるのは中井に違いないと思われた。敗因はポイントゲームをどう取るか、というUFC独特の戦術対応の差に過ぎなかったようにみえた。逆に、そこを短期集中でやれば、中井はUFCでなかなか負けない選手になるのではないかと見えた。

セコンドのウサミカンチョーがしきりにアドバイスを飛ばし、中井もその通りに戦っているように見えた。中井がスタンドでミーシャのバックをとったとき、カンチョーは「投げろ」と指示を出した。中井は言われたとおりにミーシャをジャーマン風に投げようとしたが失敗した。WOWOW解説の川尻氏は「今のは強引すぎましたね」ときっぱり語った。僕も素人目に、ジャーマンで投げてどうするつもりなのだろうと不思議に思った。星は落としたとは言え、今回の試合を見て、ファイター中井についてはすっかり信用した。むしろ、先を走る中井のことを、周囲が後ろからひっぱらなければいいのだがと案じた。


秋山成勲 def アミール・サドラー

ところで秋山はいったいいつ、ヒザにそんな大けがをしたのだろう?ヴィトー戦?

いつもは相手を呪い殺すかのように聞こえる入場曲「Time to Say Goodbye」、会場が一体となったブーイングの合図でもあるこの曲が、今回ばかりは秋山自身にとっての不吉な前兆のように悲しく響いた。しかし始まってみれば、試合ぶりはすばらしかった。いまどき、秋山の試合がこんなに素晴らしいとは失礼ながら思わなかった。これまででもっとも秋山ペースを押しつけて圧倒していた。試合後にヴァンダレイの名前を出したのも良かった。勝利者インタビューの数分間ほど、宣伝効果の高い時間帯などない。この時間を自由に使うのは、勝利者の特権だ。UFCが決めた相手と戦います、などと言ってみても仕方ない。そんなことは言われなくても知ってる。なんでもいいから、ちゃんと具体的な名前を出すことに意味がある。


マーク・ハント def ロイ・ネルソン

TK「全部空振りだけど、もしあんなフックが当たったら、いったいどうなってしまうんだろうと思いますね」
川尻「空振りの風圧で人が倒れますね。空振りでカネになりますね」

このWOWOWの解説通りの怪獣大戦争だった。ロイの多彩さを、ハントの正確さがしのいだ。ロイがあんな風に倒されたシーンはちょっと記憶にない。どこかコミカルなようでいて、きっちりと世界最高レベルの打撃戦だった。


●WOWOW前日特番の鈴木奈々さん、よかったですねえ。「格闘技を見たことのない女子に期待したいリアクション」を、過不足無く全部取ってくれるから、おじさんもなんだかすっかり気分が良くなってしまった。鈴木さんのサイコロジーにころっとやられました。頭がいいんだねえ。今回のWOWOW出演者陣のなかではダントツのP4Pでしたね。


●ヴァンダレイが引退を表明したその日に、ヴァンダレイに日本で引導を渡されたブライアン・スタンがさいたまで背広でマイクを握っているというこの奇特な巡り合わせ。ちなみにヴァンダレイは、自分でアップした動画で引退宣言したわけだが、最近のヴァンダレイはずっとそうやって、勝手にアップした動画にハードロックのBGMを付けて正直トンチンカンなことを言い続けているので、今回もこれが決定事項だと思う必要はないと思う。なにかちょっとすねて言ってみているだけのようにも聞こえるし、交渉術の一環かもしれぬ。UFC側もいまのところコメントを出していない。長い欠場あけに激闘で勝利を得た秋山のような選手にさいたまから名指しされて、ヴァンダレイもファイターとして心が動かぬ訳もあるまい。もっとも、薬物検査からトンズラした件の話はまだ始まってもおらず、現時点でヴァンダレイに選手ライセンスもない以上、ヴァンダレイ自身がどう考えようとも、すぐに試合ができる状態ではないことも、また明らかではある。


●ダナ・ホワイトは来日せず、試合後記者会見は見たこともない広報担当者が仕切っていた。その彼氏の発言によると、アジア大会は今年はこれでおしまい、来年のスケジュールはまだ発表できない、日本大会については来年の同じ頃にできるのではないか、と語っていた。日本版TUFについては言及がなかった。人事や組織面での変更もあった。UFCのアジア展開はいったん小休止モードに入るのかもしれない。

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