天然リングサイコロジーの天才、小國以載を愛でる


小國以載 def. ジョナタン・グスマン(2016.12.31, IBF世界スーパーバンタム級タイトル戦)


年末に山ほど放送されたボクシング中継を録画しておいたので、すこしづつ消化して今ごろやっと見終わったわけであるが、ベストマッチはたまたま僕が最後に見た、「小國以載 vs. ジョナタン・グスマン」であった。


このグスマンさんという人、MMAでいえばポール・デイリー的というかメルビン・マヌーフ的というか、無鉄砲そうに見えて意外に試合巧者で、爆発力があって、ちょっとした穴を見つけると攻め込んでくる勢いはまるで暴風雨である。これに対して、これといって目立つ技もなさそうで、さほどハンサムでもなく、井岡や井上のカリスマ性も、村田諒太のような輝かしいキャリアも見当たらない小國以載(おぐにゆきのり、と読む。すいませんね、世界タイトルに挑戦するほどの人なのだから、そんなことないんでしょうけど、あくまで個人の感想ですよ)。


案の定、試合序盤はグスマンのパワーの前に、とてもかないそうにもないように見えた。しかし中盤に入ってグスマンが失速し初めるなか、小國は辛抱強く守備を固めながら、時折カウンターのボディで相手を削る作業を、まるで寡黙な熟練工のように繰り返す。場内に徐々にソワソワと、アップセットの雰囲気が高まっていく。グスマンが弱っていくのが見えるのだ。そして終盤はグスマンが防戦一方に。場内に小國コール。さっきまで小國の事など知らなかった僕まで、テレビの前で思わず気分は小國コールだ。

ドラマは11ラウンドにやってきた。小國のボディが炸裂し、グスマンが前のめりに座り込むようにダウン。しかしさすが試合巧者と言うべきか、とっさに金的を痛そうに押さえて誤魔化すグスマン。レフリーもローブローを認め、回復時間を与える。場内大歓喜から一気に沈黙へ。11ラウンドがおわり、ラウンドインターバルの場内に先ほどのローブローがビデオ再生されると、なんと全然ローブローではなくて、きれいにレバーを打ち抜いていたのだ!これには騒然と大怒号。その直後、12ラウンドの開始ゴング、コーナーから飛び出す小國に、場内は異様なまでの後押し。何度もぐらつくグスマン。そのたびに異常な盛り上がりを見せる観客。どうみても声援に乗せられて、さらにギアを上げていく小國。それを見てさらに感情移入する場内。すさまじいリングサイコロジーが立ち上がり、極上のドラマが展開されている!こんなおもしろいボクシング12ラウンド判定決着は見たことが無い!


小國は結局ノックアウトは出来ず、判定にもつれ込む。そうはいっても前半はグスマン優勢だったから、判定結果の発表はドキドキだ。そして新チャンピオン、小國と発表されたときのカタルシス。まるで季節外れの桜吹雪が目に見えるようであった。粘り強くコツコツと、という試合ぶりがいかにもニッポン風で好ましい。仕留めることは出来なかったという未完成感も香ばしい。開口一番、ああしんどかった、と口にした試合後のインタビューも嫌いになることがむずかしい。


下馬評不利、奇跡の逆転勝ち、粘り強い日本人選手、ずるいガイジン選手にダメレフリーと、おもしろい試合の要素がこれでもかとてんこ盛りである。ついでにいうと3Rくらいに、恐ろしい勢いで攻撃中のグスマンがボディを効かされて急に一瞬ダウンを喫していたのも、後半に期待感をつないでくれるいい前菜になっていた(こういうのをプロレスの隠語でシャインというらしいが)。


ミーシャ・テイトがホリー・ホルムに勝ったときにも、ミーシャの意外な粘りに、ある時点から場内の雰囲気がザワッと変わったのが感じられて鳥肌が立ったものだけれど、それ以来の鳥肌ものの試合だった。滅多に無いような試合なのだが、だいたい、こうして客を味方に付けた選手は、リアルファイトであっても、あんまり負けることはないような気がするのは不思議なことである。


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高橋テツヤ

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