猪木・アリ戦 もう一つの仮説【Gスピリッツへの返歌】


「Gスピリッツ」第12号、「猪木 vs アリ」特集号を読んだ。当時と現在の様々な証言とインタビューを丹念に列挙して、謎解きは読者にゆだねるという編集方針が香ばしい。そういわれると自分なりの謎解きに挑みたくなる。自分にとってもいくつかの新発見があった。少し紹介する。引用箇所は全体の100分の1くらいにすぎないので、興味を持たれた向きは雑誌を購読されたい。

●スライディングしてのローキックという作戦について
アントニオ猪木

あのルールの中では、私は寝て戦うしかなかった。しかし、これは元々柔術の時代からの基本の一つだったのだ


栗山満男(NETプロデューサ)

世紀の一戦の前、私はちょくちょく新日本の上野毛道場に顔を出して、猪木のトレーニングぶりを見に行っていたのだが・・・不思議な光景を見たことがある・・・スパーリングパートナーの藤原喜明がリング上に立って、それに対し猪木がリングに仰向けに寝てキックの練習をしているように見えたのである・・・


藤原喜明

(アリキックの練習はしていたのですか)あれはね、していない。でもローキックの練習はしていたのかな。


佐山聡

あのときは蹴る部分がヒザの横とか裏だったから。猪木さんがもう少し高いところを打ってたら、アリが倒れる可能性もあると思うけどね。



●アリのグローブについて
大橋秀行(元WBA&WBC王者)

(アリが使った4オンスのグローブなど)あり得ないグローブなんですよ。今はプロボクシングでも8オンスと10オンスしか使って無くて・・・6オンスでも僕の手が入らないくらい小さくて、バンテージを巻いちゃうとキツキツになっちゃいますから・・・あんなグローブで頭を打ったら、たぶん拳の方が折れますよ。


●試合後のアリのコメント

(試合後、通訳のケン・田島に)結局こうなっちゃったよ
(ソウルでの会見で)猪木みたいな嘘つきでないレスラーとなら再度ファイトしても良い


滞日中のアリに密着していた匿名カメラマン

試合翌日の朝に・・・不思議なことに部屋でもホテルを出るときも・・・アリは足を引きずってなかったんだよね。痛そうな素振りは一切見せてなかった。


●試合後の評判
ジャイアント馬場

多くは言いたくないが、この年の8月のNWA総会で、オレゴン州のプロモーター、ドン・オーエンが、「猪木に黄金のナイフを贈ろう」と発言したことで、世界のマット関係者の気持ちを察していただきたい。ナイフは、「日本人ならこれで腹を切れ」という意味だ。


(注 Gスピリッツの解説によれば、アリは猪木戦に先立ち、アメリカでプロレスの試合に乱入したり出場するようになっており、アリを使ったプログラムが計画されていた可能性が高いという。NWA総会の新日本への怒りは、アリという最高の素材を潰されたことに対するものではないかと分析されている)

中井祐樹 

今でも絶対、下(のポジション)になりたくない、っていう人の方が多いです・・・試合で下になった場合、負けてるケースが多いと思いますし・・・UFCなんかでも下からの攻撃は、極めなければ全く認められないですしね・・・下からアタックした人間が勝つというのは、正直ジャパニーズ判定なんですよ・・・アメリカなら、この試合はアリの完勝になると思います。


●事業規模について
大塚直樹

アリのギャラが600万ドル、当時のレートで18億6千万円なんて途方もない数字でしたよね。でも計算上は採算が取れていたんです。会場の日本武道館は満員になっても1万4千人程度ですから・・・収益はせいぜい数億ですけど、全米生中継のクローズド・サーキットをやれば、20~30億の上がりが出るから大丈夫だとアリサイドが言ってたんですよ・・・僕たちは逆に儲かるぐらいの感覚でいたんです。



これらの証言を併せ読んだ、自分なりのワイルドな仮説を作ってみた。

まず、アリはもともとこの時期、プロレスでのビジネスに乗り出そうとしていたのである。このあとまだキンシャサでの戦いなどの名勝負が控えてはいるが、ボクサーとしてのピークは打っており、新たな食い扶持を模索しても不思議ではない。じっさい、猪木戦と同じ月の上旬にはアメリカではプロレスに出場し、シュミット流バックブリーカー三連発を食らって見せたりしているのだ。アリにとっても自分の将来の可能性を探る一戦だったということだろう。

猪木から見れば、収益面を考えれば、こんな試合が国内興行では成り立つわけもなく、ビッグマネーにつながると見えた「クローズド・サーキット」に飛びついた。猪木自身にとっても、実質アメリカでのお披露目になる。おりしも馬場に先んじられNWAから締め出しを食らっていたころである。ここはひとつ、見たこともないような試合内容でアメリカ人をびっくりさせてやろう、派手なアメリカデビューを飾ってやろうと、一発逆転の博打に出たのではないだろうか。

思うに、そのためにも猪木は、これまでのプロレスとは違って見える、リアルファイトっぽいものを披露しようとしたのだと思う。ルスカに始まる異種格闘技戦でノウハウもあると思えた。そこで、おそらくはイワン・ゴメスらからも学ぶなどし、「ボクサー対レスラー」がリアルに戦うとどうなるかを検討し、スライディングキックなどの動きを織り込んだのではないか。あらかじめ練習していたようだし、ちゃんと急所は外して蹴っている。とっさの思いつきでああするしかなかった、ということではないのである。アリのグローブも、一見小さくて危険でリアルファイトっぽいグローブに見えるが、実は逆に「こんなグローブでパンチは打てない」というグローブなのである。

「猪木が下から見上げ、アリが上から見下ろす」という絵柄すらも、日米のファン気質の差を読み取って、あらかじめ考えられたことだったのかもしれない。

こんな環境で猪木が、当日朝までルールで揉めて、結局こんな試合しかできなかった、という結果に陥るのは、かなり不可思議なことである。揉めていたとしたら、それはルールではなくて、いわゆるスポットについてではなかったのか。リアルファイトっぽさのあるスポットを安全に演ずる・・・これはたしかに、容易には解けそうにない連立方程式である。「アルティメット・クラッシュ」などで亡霊のように立ち上がり、やっぱり失敗したこともある。今日でも未だ、発明されていないフォルムだと思う。おそらく、演ずるには危険すぎる何らかの要素を排除しきれなかったのではないか。

試合後の猪木は、ひどく落ち込んでいたという。もしリアルファイトだとしたら、天下のアリに負けなかったプロレスラーが、落ち込むものだろうか。スポットを演じきれなかったことに落ち込んでいたのではないのか。アメリカでの一発逆転が泡に消え、自らのプロレスラーとしての評価に味噌がついたからこその落ち込みではなかったのだろうか。

この仮説ロジックによれば、この試合は、ものすごく真剣かつユニークなやり方で演じられた、ワーク・ファイトである、ということになる。その真剣さを、試合後のアリは良しとしたのではないかとも思われる。

他方でアリが猪木を選んだ理由には、「クローズド・サーキット」というハイリスク・ハイリターンに猪木が乗ったということがほとんど唯一ではないかという気がする。


ちなみに、「猪木 vs アリ」については当ブログでもこれまでに少々とりあげてきた。いろいろな意見を紹介しつつ、僕自身の感想も、それはそれとして、書いたことがある。で、この分野の記事は実は割合に反響がある。その情報は間違いですよとか、真実はこうだとお知らせくださる方もある。そのことを別に迷惑だと思っているわけでもないし、むしろ楽しく拝読させていただいてはいるが、正直言うと個人的には、この試合のヤオガチとか、周辺事項の真実味だとかについての「正解」を探したいとは思っていない。実際、探しようがないと思うからだ。それは、Gスピリッツの巻頭言にもあるように、肝心の当事者二人から、信ずるに足るような言葉が出ていないからである。特にアリの言葉がほとんど出ていない。もし本人から素直な言葉が出たとしても、仮に上の仮説が多少でも的を得ているなら、ヤオともガチとも表現できてしまうのではないかと思う。「プロレスという方法論の可能性」という観点で見るべき試合ではないかと思う。

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UFC100大会前記者会見でダナ・ホワイトがミルコ・クロコップについて発言。Versus のスクリプトから訳出。

(ミルコはUFCに戻ってくるのか)

そうあってほしい。ドイツでの記者会見でもお話ししたとおり、彼とは取引をしたので、彼がそれを尊重してくれることと思う。これまで何度も話してきたことだが、日本にはペテン野郎がいる。あいつらはみんなペテンだ。ずるいことがまかり通っていて、それが常に問題になる。日本のファイトビジネスに関わるヤツらは、良くないヤツばかりだ。

(ミルコはUFC103でジュニオール・ドス・サントスと戦うのか)
未だ契約は完了していないが、そのカードを見たいと思っている。

(UFCは近いうちに日本に進出するのか)
僕が日本に行くと殺されてしまう。どうしてオレを日本に行かせたいんだ?オレは嫌われているんだよ。

(日本人はあなたを待っていると思うのですが)
ああ、殺そうと思って待ってるんだろうなあ。確かにな。


Kamipro にも記事があるが、それよりもうちょっと物騒な口ぶりだったのをそのまま訳してみた。なおKamipro は「日本にはクロコップシットがいる」と不思議な言葉で訳出しているが、ダナは Crooked (心が曲がった人、不正直な人、いかさま師、ペテン師、悪党、詐欺師、泥棒)と言っている。 Kamipro の記者が Crooked を Crocop と聞き間違えたのか、あるいは何かの意図がある比喩的な表現なのだろう(笑)

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Rose vs. 'The Snake': Jim Rose Circus coming to Salt Lake City (The Salt Lake Tribube)

米国で話題のサーカス団に The Jim Ross Circus がある。著名ヘビーメタルバンドの前座として公演を始め、エロ・グロ・下品満点のパフォーマンスで人気だそうだ。少し検索すると映像も見つかるし、見ればすぐ腑に落ちる。

このサーカス団に、ジェイク・ザ・スネーク・ロバーツが参加することになったそうだ。

ロバーツが参加するおよそ1時間のくだりは、おなじみのスタントに加え、ロバーツの人生に関する物語も語られるという。

団長のジム・ロスはかねてロバーツのファンで、映画ザ・レスラーに触発され、ロバーツの復讐・復活のストーリーを思い立ったという。「誰かがどこかでホッチキスを食らうことになる。ショーの結末は教えることは出来ない」

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