ASTRA, WEC48レビュー


「吉田秀彦引退興行 ASTRA」をPPV観戦した。

中村和裕 def 吉田秀彦

放送席が、「中村和裕は会場入りから入場まで、ひとりぼっちで過ごしていました」とレポートしていた。吉田秀彦と戦う以上、吉田道場勢は吉田につかざるを得ない。TKが、「カズは技は器用だけど、アタマは不器用」と紹介する。大会が始まり試合が進む。試合の合間には、桜庭・石井慧・鈴木亜久里・北島康介と言った著名人から吉田へのメッセージが流される。ヒョードルが来場し挨拶する。試合直前にはASKAが君が代を歌い、つんくが選手コールをし、ネプチューン名倉が、藤川優里が、吉田に花束を贈る。試合後にも来賓を招いた引退セレモニーが予定されていることはわかっている

これだけのスターパワーを見せつけられて、舞台を整えられて、バーをあげられて、師匠人脈・國保人脈がリングを眺めている中で、最近ロクに勝っていない中村が、師匠を殴らないといけないのである。その上試合が始まると、師匠が道着を着て、お得意のジョージ・フォアマン・フットワークで壁のように迫ってくるのが恐ろしい。

師匠をすっぱり介錯することで、このスターパワーを引き継がないと、アストラを背負っていくことなど出来ない。権力交代劇を満天下に見せつけるべきであることは、アタマでは理解できていたことだろう。

それでも中村カズは、自分の小ささを圧倒的に実感させられたのではないかと思う。アタマがもうちょっと器用だったとしても、萎縮するのが普通である。

結果、カズが新エースであるとの打ち出し方は出来なかった。もっとも、イベントの継続性も,今報じられているところでは定かではないのだから、そのような打ち出しが必要だったのかどうかは解らない。ただ、なにせこの試合に関しては、いろんな制限の中で、ほったらかしにされているのに、きちんと判定勝ちという結果を得てお役目を果たしたカズに同情する。でもこういう役割って、不謹慎な例えだけど、喪主を務めたようなものだと思う。気疲ればかりするけれども、見ている人は見ているし、本人の格は確実に上がったのだと思う。お疲れ様でした。

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大会は村上ショージ・リングアナの開会宣言でスタート(これには大歓声!)、吉田秀彦の「國保尊弘、サイコー」の一言で幕を閉じた。途中、前述のように芸能人も続々登場、リングマットやコーナーポストには著名企業のロゴマークがテンコ盛りで、PPVオンリーの大会としては実にアンバランスな豪華さを誇っていた。6時間近いマラソン興行になったこと含め、国保氏らしい大会だったというか、国保氏の力を見せつけられた大会だったように思う。

解説の秋山は第一試合から飛ばしていた。「今日の放送もずいぶんセコンドの声を拾うなあ、そのせいで実況が聞こえないよ」と思っていたら、セコンドの声と思ったものが秋山の声だったのである。エアーセコンドどころか、リアルに解説とセコンド役を兼ねていた。「(マイクに向かって視聴者に語りかける)長南選手、ちょっと大振りですね(続けて、リングに向かって大声で)長南!もっとコンパクトに!」と言った具合である。放送席からリング上の選手に直接語りかける解説者は、藤原紀香以来である。

白井祐矢 def チェ・ミルズ

煽り映像がよかった。白井のキャラがはじめて理解できたが、吉田道場の末っ子なんですね。吉田から、「クルマにおいてあるTシャツ、取ってこい」とか命令されて、半泣き・半笑いで取りに行く姿。「おまえ、次負けたらクビ」「手がかかる子」などといった吉田のSなコメントが連打される。

そんな選手がクリーンに一本勝ちしたのだから、見ているこっちまで嬉しくなってしまった。しかもフィニッシュ前には、バックからのチョークを取られかけ、DREAMでジェイソン・ハイ戦の悪夢が一気によみがえり、しっかりと手がかかる男ぶりを発揮していた。

中村大介 def 天突頑丈

煽り映像はいまさらながら「U vs 修斗」のイデオロギー闘争の構図を打ち出していた。

中村の,キレがあってわかりやすい動きが1Rから炸裂、ほとんどやりたい放題状態で天突を攻め込む。それでも流血の天突が、まるでジャパニーズ・ゾンビのように反撃、試合は戦争の様相を呈していく。3Rには、天突がハート丸出しで殴り続けるので、ほとんど天突の姿しか目に入らなくなる。修斗の方がプロレスラーに見えてくる。

自分が中村ファンだということもあって、今年ここまでのファイトオブザイヤー候補になるような、大満足の大熱戦だったと思う。解説の秋山「ええ根性見せてもらいましたわ-。根性ってどうやって鍛えるんですかね」

チェ・ジョンファン def 長南亮

金髪に「WE ラブ(ハートマーク)秀彦」と染め抜いた長南がまさかのワンパンKO負け。決定打となった打撃をスーパーマンパンチだと実況していたが、むしろ「ライダーパンチ」というべきだと思うほどの、ジャンピング・ストレート・パンチであった。なんかちょっとどん引き。

エンセン井上 def アンズ・ノトリアス・ナンセン

これ以外にはあり得ないのではないかと思う一本道(テイクダウン、マウント、アームバーというクラシックムーブ)をまっすぐにちゃんと歩いて勝利を得た。それにしてもナンセン、寝かすとここまで何も出来ないのか・・・この人とスタンドで打ち合った泉って一体・・・


ホルヘ・マスビダル def 小谷直之

優勢ポイントの差で敗れたものの、小谷らしい地味でしぶとい試合だった。試合中に何度も、客席の北岡の姿が映し出されていたので、「マスビダル>小谷>北岡」という図式が頭に浮かんでしまった。

試合が終わってコメントを求められた秋山「いやー、今回のラウンドガールの人、みんなすごいキレイですね」確かにそうなのだが、今言うか?

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WEC48もネット観戦した。アメリカのPPV的には、この大会はWECではなく、あくまで「Aldo vs Faber」という大会のようである。アルドは「フェザー級チャンピオン」であって、「WECチャンピオン」ではないのである。W-1で「プロレス」がNGワードだったように、このPPVでは「WEC」がNGワードのようであった。

ジョセ・アルド def ユライア・フェイバー

空中でホバリングしながら花の蜜を吸うハチドリというトリがいるが、1Rにユライアが見せた動きはまるでそんな風だった。距離を取っていると思ったら、おもむろに接近して、ホバリングするようにしばらくの間、超速コンビネーションで攻め、また距離を取る。アルド対策をいろいろ考えると、こんなことになるということだろうか。余り見たことのない動物的な動きがとても印象的だった。ところがアルドは簡単に解決策を見いだし、2Rからはユライアに強烈なローキックを浴びせる。あっというまに接近できなくなるユライア。逆に近づいてくるアルドを前蹴りで追い払うくらいしか術がない。

3R以降は基本的にはローが効いていてユライアがマトモに動けない。4R、ユライアは立っているだけで足がロンパリになっている!4R終盤、クルシフィクス・マウントからアルドがパウンド連打。これはひどい、もう止めるべき。桜庭の試合を止められない日本のレフリーを思い出してしまうほど、ストップに慎重なレフリー。

ところが5R、アルドは消極的になり、瀕死のユライアをフィニッシュしようとせず。たしかに、なんらリスクを冒さずともスコア上は明らかに勝ってはいたが、WEC初のPPV大会という晴れの場で、ちょっとアンデウソン的なことになってしまったのは、この日のアルドの素晴らしいパフォーマンスに画竜点睛に欠いた。ダミアン・マイア同様、最後までフェイバーの根性が目に付く展開となった。

それにしても、撲殺秒殺男のアルド(弱冠23歳)が、フルラウンドを使ってプランを遂行すると言った試合も出来ることを証明したわけだから、なんとも難攻不落の王者ぶりである。


レナード・ガルシア def ジョン・チャンソン

「中村 vs 天突」はファイトオブザイヤー級だなあ、と思っていたら、この試合も見方によってはそれを上回る大熱戦だった。まことにクレイジーな大打撃戦。とにかく,騙されたと思って各自調査でマスト・シー。コリアンゾンビは本領を発揮しすぎだが、なんとガルシアまでもがアメリカン・ゾンビと化して、死ぬに死ねない二匹のゾンビがゾンビぶりをエンドレスに競い合う・・・選手も殴りあいながら笑っているのだが、見てる側もあほらしすぎて声を上げて笑ってしまうような試合だ。本当に映画を見ているようだったし、男の子ってアホで可愛いなあと暖かくなれる試合だった。こんな試合、勝敗はもはやどっちでもいいのだが、敢えて言えばチャンソンが優勢に見えた。


「ベン・ヘンダーソン vs ドナルド・カウボーイ・セラーニ」のリマッチは、前回のフルラウンドのマラソンマッチとはうって変わって、ヘンダーソンの一発目のフロントチョークであっさり決着、「マニー・ガンブリャン vs マイク・ブラウン」も盛り上がる前にカウンターを食らったブラウンがストンと落ちてしまうKO負け。これは驚いた。メインカードが短時間決着だったため、PPVでは前座カードもドンドン放映されたが、水垣の試合だけはカットされるという残念な結果になっていた。

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試合前にデイブ・メルツァーがフェイバー敗北のビジネス面での意味を解説していた

Zuffa が WEC を2006年の暮れに買収したのは、もっぱら事業展開上の理由からだった。当時UFCが敵視していたIFLが、テレビ局Versus と交渉していたのだ。UFCはSpikeと独占契約している。だから、IFL
を阻止する唯一の方法は、別会社を作ることだった。別会社とブランドを区別するために、WECは軽量級に特化することとなった。

フェイバーは当時すでにフェザー級王者で、会社の顔になっていた。彼には確かなスキルもあったし、そのスタイルのせいで必ずと言っていいほど好試合をやってのけた。独特の人好きするスターのカリスマと、雑誌の表紙にぴったりのルックスも持っている。Versus での WEC 中継は、30万人から150万人の視聴者を集めるが、高視聴率の大会にはつねにフェイバーの出場があった。

今後のWECのPPVの成功も、フェイバーの存在にかかっている。フェイバーはどうしてもチャンピオンでなければならないことはないが、やはり王座戦を視野に入れている位置にいる必要がある。アルドに負けるとなると、その位置を保てなくなる。

いろんな意味で、土曜日のWECのショーは、前週土曜日のストライクフォース同様、プロモーションの将来にとって最も重要な大会となる。UFCはこの数年は安泰だろうが、そのほかのプロモーションの行方は、こういったビッグイベントにどれくらいの支持が集まるかにかかっている。



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同じくメルツァーによる、ストライクフォース・ナッシュビル大会のビジネス面での評価。レスリング・オブザーバより。

ストライクフォースの課題は、CBSで放送が継続されるかどうか、プライムタイムでやっていけるのかどうかと言うことだ。過去4度のうち3度、CBSは「男性18歳から34歳」層向けの広告枠を完売することに成功している。視聴率自体は通常番組より低いのだが、この特定の視聴者層の支持を得ることができるのはMMAの強みとなっている。ストライクフォースの視聴者層は,実はUFCよりも年齢が高い。CBS自体の視聴者が高齢者に偏っているからである。それでも、ヒョードル・キンボ・ジナと言った選手が出場する大会では、若い男性の支持を得ることに成功していた。問題はダン・ヘンダーソンもその仲間入りを出来るかどうかと言うことだったのだが、結果的は裏目に出た。

今大会は視聴率1.76%、視聴者数286万人を獲得したが、「男性18-34歳」の視聴率は1.26%にとどまり(前回は2.3%)、「男性35-49歳」の層でも1.74%(前回2.7%)であった。戦前には、アメリカではダンヘンの方がヒョードルより露出が高いのだから、ヒョードル大会(2.45%、404万人)を上回る数字をとってもおかしくないとされていた。内部的には、300万人を超えれば御の字ではないかという慎重な見方もあった。CBSの土曜の夜の通常番組の視聴率は、「男性18-34歳」で0.6%であるので、それでも普段よりはよかったことになる。さらに、男性視聴者層については、4大ネットワーク中トップであった。ただしトータルでは、普段の放送の半分の視聴率しかとれなかった。

2008年のエリートXCにはもっと視聴率が低かった大会もあったが、それでもCBSは放送を継続している。WWEがここ数年、NBCで挙げている数字よりも未だマシな結果である。視聴率云々よりも、おそらく今大会の意義は、ダン・ヘンダーソンの人気度を計測できたことにあるのだろう。そしてダンヘンが今回のような負け方をした以上、次回も大きな数字を取ることはないだろう。

CBSの役員は週末にもストライクフォース側とミーティングを持つという。試合自体はよくなかったが、そのことは視聴率とは余り大きく関係ないだろう。放送時間が45分間延長されたことについては、各ローカル局の11時のニュースの開始が、低視聴率番組に押されて遅くなったことは喜ぶべきことではないだろう。しかしこうなることはブッキングの時点で予測は付いたことだ。最後の乱闘騒ぎについても、視聴率がよければ特に問題視はされなかったことだろう。しかし、つまらない試合・弱い視聴率・無駄な延長・そしてあの騒動が重なってしまったことは、CBSがタオルを投げる原因となってしまうかもしれない。低視聴率と乱闘については、ネガティブな報道も出回っている。ニューヨーク・ポスト紙は、あの乱闘は完全なお芝居だと断じている(あれは芝居ではない)し、一般の評価もそんなところだろう。CBSはいやでもキンボ騒動を思い出すだろうし、元々MMAはローカル局から反対の声があがるコンテンツでもあるのだ。



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5月のSAMURAI番組表によると、シュートボクシングの放送が開始されるようだ。5月25日(火)23時から、4.11後楽園ホール大会が予定されている。J-Sports から音もなく消滅して以来、久々のテレビ放映となるものと思われる。4.11のメインイベント、梅野の試合は、ゴン格のクロスレビューで多くの評者が4月の月間ベストバウトに選んでいる。このほか「宍戸 vs 鈴木悟」、渡辺久江復帰戦も行われた。

映画「レスラー」がスカチャンPPVで放映される。525円。

すっかりベビーフェイスに転じた秋山成勲が Twitter 開始。オーケー!

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