ぼくがまだカロだった頃【カロ・パリジャンの真実】


Parisyan still overcoming Parisyan (ESPN)より抄訳

・・・カロにとって、支える人たちにとって、そもそも試合に臨むまでにメンタルゲームがもはや苦痛以外の何ものでもなかった。

「もう死にそうだ」カロはロッカールームで出くわす誰もかれもに話しかけていた。「こんなんで試合なんかできるのかな」

・・・パリジャンは、吉田善行戦、ダスティン・ヘーズレット戦直前に試合を投げ出し、ダナ・ホワイトの信用を失った。・・・まるで不良品の烙印を押されたかのように、誰もパリジャンに関心を寄せる人はいない。この夜明らかになった悲しい現実はこうだ。パリジャンはケージになじまない。闘うべき次の試合は、自分自身との闘いだ。練習は不十分、ファイターとしての集中力も失われてしまった。デニス・ホールマン戦の前3日間、ホールマンの存在は、最良のシナリオの終わりに座っている、ほんの仮想の一状況に過ぎなかった。

・・・2004年から2007年にかけて、パリジャンはUFCで、柔道をエキサイティングで実践的な芸術に変えて見せた。しかし、ウエルター級でトップ5にランクされるようになった2008年のチアゴ・アウベス戦の直前に、パニック症候群に襲われた。

パリジャンは思い起こす。「ただ座っているだけのことが無理だった。不安で一杯で、心臓は天井を突き抜けそうだった。試合前には練習用のマットの上で眠った。神をののしり、気を失った。寒さで震えていた。友達が尋ねてきて「大丈夫なのか」と聞かれたとき、生まれて初めて、大丈夫じゃない、と答えた」

・・・UFCは一時間300ドルのスポーツ・サイコセラピーをパリジャンに提供したが、それでも精神的な症状は悪化し、ついには鎮痛剤に依存するようになった。精神安定剤に加え、慢性的な腰痛や太ももの痛みをしのぐべく、鎮痛剤の服用を開始、常用性のあるオキシコンチンまで服用していると噂されていた。精神的な症状は、鎮痛剤を正当化するための言い訳に過ぎないのではないか、とささやく向きもあった。

パリジャンにとってのジレンマは、MMAのようなプレッシャーの強いスポーツにおいて、このような症状は堂々巡りを生み出してしまうと言うことだ。安定剤と鎮痛剤が無くては試合が出来ないと感じる、でもその試合が不安のモトになる。その上、パリジャンは14歳の時から闘っている。これしか知らないのである。

UFC94でキム・ドンヒュンに判定勝ちした後、違反の鎮痛剤が検出されて裁定がノーコンテストに覆り、9ヶ月の出場停止となった際、パリジャンはネバダ州コミッションから罰金3万2千ドルを科せられた。ところがパリジャンには、そんなカネはなかった。

今回パリジャンがホールマンに勝てば、州コミッションが1万5千を、負ければ7千を、ファイトマネーから天引きすることになっていた。

パリジャンはいろんなものを「たくさん、あわてて」浪費しすぎたと語っている。新しい家と車を買い、父親にはキャデラック・エスカレードをプレゼントしてしまった。結婚式には8万ドルをかけた。

顔面蒼白でマットに横たわり、真っ黒な瞳を見開いて胸をドキドキさせているとき、彼の頭に去来するのはそんなようなことである。いろんな思いが一つの大きな塊になってパニックを引き起こすことを、パリジャンは「ハンバーガーのパテが牛一頭になってしまう」と表現する。試合が近づくにつれて、彼の言うことと言えば「何かクスリはないか」一辺倒になっていく。タイレノール3でもぺーコセットでも何でもいい。コデインさえ入っていれば。

でも彼の周りの人はノーという。試合の日、パリジャンは「鎮痛剤を飲んでもドラッグテストで検出されない気がする」などと言い出す。もちろん確証はない。クスリを持っている人がそばにいたら、パリジャンは喜んで、キム・ドンヒュン戦での出来事を繰り返してしまいそうだ。だから、みんなが彼の頼みを無視する。控え室の医師は、異常はない、安定剤だけなら飲んでもいいと繰り返す。

オクタゴンに向かうパリジャンは「シャワーも使えない。水が痛いんだ。心臓がバクバクしてる」と語る。試合直前に、禁断症状からくる鳥肌を堪え忍んでいる男を見ているなんて、ちょっとありえない。


木曜日にホテルでインタビューした。「ぼくがまだカロだったころなら、スイートルームに泊まってた。僕は2007年だけで50万ドル稼いだんだ。キムとの試合の前にはスポンサーマネーで10万ドルを受け取った。その頃にはUFCと8試合契約を結んでいて、百万ドル以上の値打ちがあったはずなんだ」

パリジャンの口癖は「ぼくがまだカロだった頃」である。まだ28歳で、すべての結果が自分の身に降りかかってくる前座試合の恐怖を沈黙のうちに耐えて座っているパリジャンは、確かにもはやカロ・パリジャンではなかった。14歳の時にメキシコの23歳のチャンピオンとベアナックルでやり合った男、UFC44でのデビュー戦でデイブ・ストラスナーにローリング・キムラを極めた男、UFC46ではGSPの腕を折りかけた男、ニック・ディアズ、クリス・ライトル、マット・セラを次々に撃破しウエルター級のコンテンダーに名乗り出た男とは別人だった。


今のカロにとって、試合というだけでおそろしい堂々巡りの連想ゲームが始まってしまう。オクタゴンを見るだけで恐怖心が湧いてくる。閉所恐怖症だし、大勢の人が顕微鏡で自分のことを検分しているという考えに耐えられない。パニックにおそわれながらベッドに寝ているとき、まるで棺桶の中にいるような気分だという。

数日前、カロはUFCマッチメーカーのジョー・シウバといた。ほんの気楽な会話のはずだった。でもパリジャンは試合について話し始めると、暗い場所へと落ちていった。きっかけを作らないよう、できるかぎり話を軽いままにしておこうとしていたシウバは、パリジャンの目を見てこういった。「ただ来て、いいパフォーマンスを見せてくれればいい」。そして、パリジャンに希望を持ってもらおうとして、格言を取り上げた。「むかしのサムライの言葉に、死を恐れぬ者は無敵であるというのがあるだろ」そしてシウバは言葉が届いたかどうかを、パリジャンの瞳のなかに探してみた。届いたのかどうかはわからなかった。


UFCのコーディネーター、バート・ワトソンの、パリジャンを呼び出す声が鳴り響く。「オーケー、カロ、入場だ!」カロはあらゆる自分の欲求を、いったん脱ぎ捨てる。その様子はほとんどストイックだ。怖い。でも行かなければならない。勇気の瞬間なのだ。カロ・パリジャンにとって、ファンにとって、精神的な勝利が待っている。オクタゴンに出て行けること。自分の経験がいかせること。これまでに積み重ねてきたこと。

前日カロはこう語っていた。「脳がやってのけることって、説明を超えているよ。サイアクの時には、自分の頭に弾丸を撃ち込みたくなる。暴走するのを防ぐためにね」

パリジャンはこれといった見せ場もないまま、ホールマンに1ラウンドTKO敗けを喫した。ロッカールームへの帰り道、ファンはカロに罵声を浴びせた。

試合後のホールマンは、かつて華やかだった選手の抜け殻を倒してしまったことに、意気消沈しているように見えた。「唯一の救いは、自分がカロを倒す男だったということだ。だって僕は彼の大ファンなんだ。どうか、カムバックしてきて、この敗戦を克服して欲しい。カロがまた誰かのケツを蹴り上げるところを見たいよ。」

そうするためには、まずパリジャンは、鎮痛剤中毒を克服し、つぎに内なる悪魔を克服しなければならない。彼はそのことを、どこか別の場所でやらなければならない。なぜなら月曜日にUFCから解雇を言い渡されたからだ。ダナ・ホワイトの最後の言葉は、君はUFCには値しない、ということだった。

・・・試合までの数日、人々は「TUF」での出来事を思い出してパリジャンをからかっていた。TUFでパリジャンがネイト・ディアズに対して吐いた言葉「おまえさん、俺が誰だかわかってんのか?」は有名なのだ。カロもそんなからかいには慣れていて、通常は笑い飛ばしている。その言葉のTシャツでも作るか、などと言うこともある。

皮肉なことに、その質問はいまやパリジャン自身の身に降りかかっている。そしてその答えは、選手にとって最悪の悪夢に他ならないのである。

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